防衛費よりは、国民の生活費の拡充が優先

岸田首相が2027年度には、防衛費をGDP比2%にするように指示した。総合的な防衛体制の強化ということで、研究開発、港湾などの公共インフラ、サイバー安全保障、国際協力の分野の予算と合算ということであるが、財政がパンク状態のなかで防衛予算を突出させるのは何とも解せない。迎撃ミサイルの購入や、空母の保持など、防衛費の拡大は自民党タカ派がかねてより主張していたが、今年に入りロシアのウクライナ侵攻による影響もあり、北朝鮮のミサイル発射実験も度重なるなかで、防衛費の増額が安全保障上必要であるという強硬意見が高まる傾向に呼応してでてきたのは間違いないのだが・・・。

 

 しかるに、賃金が上がらない中で、食料品をはじめ日用雑貨など軒並み値上がりしている状況の中で、もはや庶民の家計はこれ以上節約ができないほど厳しい状況に追い込まれつつある。予算作成における優先順位を考えると、国民の身体的安全を守ることが先か、それとも座して餓死を待つべきかというところまできているのである。アメリカでは、8%を超えるインフレが続いているが、それでもその中で生活するだけの賃金をもらっている人は多い。またたとえ失業していても食料品の無料配給制度がある。日本は賃金が上がらない中で、インフレに突入しはじめている。水道光熱費に対する補助が検討されているが、それでどれだけの人が救われるだろうか。

 

 もう少し別の観点から見てみよう。防衛費の支出の多くは、自衛隊員に支給される賃金もあるが、戦闘機をはじめとする兵器や爆弾などを製造する企業に支払われる費用も結構あるが、そのほとんどは米国の企業である。つまり、日本の企業を潤すようなものではないのである。また、日本の企業は、長年従業員の賃上げに消極的であり、それがまわりまわって商品価格を引き上げられない要因となり、新製品のための投資意欲を欠いて、日本経済を衰退させてきたのではないか。日本政府は、経済の活性化のための効果的な政策をこの30年余り打てていない。今や日本経済の構造を考えたとき、強みとなる産業、技術はどんどん消失しているといっても過言ではない。残念ながら防衛費を増額しても、国民の安全保障が完全にかばーできるだけのものではない。財政に余裕があれば、防衛支出もあるかもしれないが、今は残念ながらその時期ではないのではなかろうか。

 

 家計のセーフティネットたる、社会保障費も必要額には程遠い。それならば、家計の消費支出額を増大させる手を考えるべきではないか。ベーシック・インカムが難しいなら、安心して余生が暮らせる家計防衛のための社会保険料削減や、最低限度の生活を維持できるだけの予算を確実に組むべきである。